3種類の遺言書について
遺言はご自分の財産を託す法的な手段として生前に行うものであり、書面化するにはいくつかのルールが定められています。
ご自身が事業主である場合には事業承継なども絡んでくるため、遺言は非常に重要な行為だといえるでしょう。
遺言は文字で残すことを原則としているため、後日の改変が可能な録画や録音などは認められていません。また、共同作成した遺言書は法的な効力を発揮しませんので、必ず個人単位で作成してください。
遺言書は、本人の意思を伝える法的な手段として用いられるものです。
「財産を誰かに託したい」「子供同士で争いにならないよう、相続の分割方法を決めておきたい」といった考えがある場合には、きちんと作成しておくことをおすすめいたします。
なお、遺言書は「遺言書(ゆいごんしょ)」として広く知られていますが、民法上では遺言(いごん)と呼ぶのが一般的です。
では、遺言書の種類にはどのようなものがあるのか、ご一緒に確認して行きましょう。
自筆証書遺言
遺言者本人が全文・日付・氏名を自筆で書いた書面に押印したもので、必ずご自分で書くことが遺言としての条件となります。
用紙についての決まりはとくにありませんが、パソコン文字や代筆は認められません(財産目録は除く)。
自筆証書遺言のメリット
- 費用が掛からない
- 遺言内容の秘密が確保できる
- 遺言したこと自体を秘密にできる
自筆証書遺言のデメリット
- 遺言者にとっては遺言内容の実現が不確実
(発見されない、破棄される等の恐れがある) - 開封するには家庭裁判所の検認手続きが必要
- 検認手続きをせずに開封した場合、5万円以下の過料に処せられる
公正証書遺言
公正証書遺言とは遺言者本人が公証人役場に出向き、証人2名以上の立会いのもとで遺言の内容を話し、公証人が筆記して作成する遺言書です。言葉や耳が不自由な方の場合には、通訳を介して作成することができます。
公証人は記録した文章を本人と証人に読み聞かせ、または閲覧させ、筆記の正確さを確認したうえでそれぞれ署名・押印をします。
その書面に公正証書遺言の形式に従って作成した旨を公証人が記載し、本人および証人とともに署名・押印して完成です。
なお、相続人になる可能性のある方(推定相続人)、直系血族、未成年者、受遺者などは、公正証書遺言を作成する際の証人になることはできません。
公正証書遺言のメリット
- あらかじめ公証人により違法や無効がないことがチェックされているため、最も確実に遺言を残すことができる
- 開封時の家庭裁判所の検認手続きが不要(手続きや費用が浮く)
- 公証役場に原本が保管されているので、正本、謄本を紛失しても再発行請求ができる
公正証書遺言のデメリット
- 費用が掛かる(公証人手数料)
- 遺言内容が一時的に公証人と2名の証人(計3名の他人)に公開される
※公証人・証人ともに守秘義務が求められます
秘密証書遺言
秘密証書遺言は公正証書遺言と同じように公証役場で作成しますが、遺言書の内容については公証人も証人も確認できない点が異なります。
秘密証書遺言は作成時点でその内容を本人以外に知られることがなく、プライバシーを守ることができます。しかしながら自筆証書遺言同様、開封するには家庭裁判所での検認手続きが必要です。
※検認手続きが不要なのは「公正証書遺言」のみ
秘密証書遺言のメリット
- 遺言内容の秘密を確保できる
秘密証書遺言のデメリット
- 費用が掛かる
- 開封するには家庭裁判所の検認手続きが必要
- 検認手続きをせずに開封した場合、5万円以下の過料に処せられる
- 遺言を遺したこと自体は、公証人と2名の証人(計3名の他人)に知られる
- 専門家のチェックを経ていないので、遺言内容によっては相続人間での紛争を引き起こす可能性がある
このように、一般的に用いられる遺言書(普通方式)には3つの種類があり、ご自分に合った方法を選んで作成することができます。
ほかにも例外的ではありますが、本人の臨終間際に口述筆記を第三者にしてもらい、その内容を確認する証人2名以上が署名・押印して作成することも可能です。
しかし親族などが筆記したものは歪曲の恐れがあるため、このような状況でも認められません。
こうした緊急的な措置はあくまでも例外的なものですので、本人が元気なうちに時間を作って遺言を作成しておくことが望ましいのは間違いありません。
遺言書作成の起案やアドバイス、遺言書に盛り込むために行う相続財産の調査については、専門家に相談することをおすすめいたします。
遺言を遺すほうが望ましい方
生前対策として遺言を遺しておいた方が望ましいと思われるのは、下記のような方です。
- 現在、何かしらの事業を運営されている方
相続による遺産分割が相続人間でうまくいかず会社の財産がバラバラになり、会社が継続できない状況に陥り、従業員に迷惑を掛ける可能性があります。 - 特定の相続人にのみ財産を相続させたい方
生前贈与を活用したほうが良いのかも含めて検討が必要です。
また、単に特定の相続人のみに承継させるとしても、遺産相続の紛争が起こってしまっては遺言も効力を発揮できません。この点においては事前に相続人や相続財産、遺留分などについて確認しておくことが重要です。
残念ながら昨今多くなっている相続の揉め事は、遺言書がなかったために生じているものが大半だといわれています。なかでも一定の財産を持ちながら「うちには関係ない」と思われている方が、特に揉めてしまう傾向にあるようです。
ご自分の死後に大切なご家族やご親族が困ることがないよう、判断能力が十分あるうちにきちんと遺言書を作成しておきましょう。